放射能被害から避難する権利の保障について…

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自主避難への損害賠償は中間指針に入らず、しかし委員は賠償に好意的

山口響(福島原発事故緊急会議)

 

 今日(201185日)、原子力損害賠償紛争審査会13回目が開かれ、傍聴してきました。

 主な審議内容は、福島原発事故の損害の範囲判定に関する「中間指針」の決定と、政府の指定した避難区域外からの自主避難者への損害賠償に関する議論の2つでした。前者については省略し、自主避難の問題だけ報告します。

 中間指針に関する議論の冒頭、能見善久会長(学習院大学法務研究科教授)から、「自主避難は難しい問題なので中間指針に入れていない。自主避難を中間指針に入れようとして中間指針を出すのが遅れることがあってはいけない」という発言があり、これを他の委員も了承して、自主避難者への損害賠償は中間指針に入らないことが決まりました。

 中間指針を審議・決定した後、自主避難に関する議論に移りました。資料として配られた「自主避難に関する論点」を添付しておきます。

 審議全体を通してみると、自主避難者に対して何らかの賠償をすべきであるというコンセンサスが委員の間でかなりできつつあるように見受けられました。

 以下、各委員の簡単な発言まとめです(山口のメモを基にしているので、必ずしも正確でないかもしれません。正確な発言内容は、のちに文部科学省のウェブサイトに掲載される議事録をご覧ください)。

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●中島肇委員(桐蔭横浜大学法科大学院教授/弁護士)
 異質な2つの問題がある。
①瞬間的に年換算で20mSvを超えるような線量の値が出たが、その後線量が低減した場合。文科省では毎時3.8μSvを[校庭の使用等の]基準にしているが、避難区域でない福島市では毎時10μSv近くいったこともある。
②年20mSvまでは到らないが、身の危険を感じた場合。ネットでは日本の安全基準は国際基準よりも甘いという議論もあった。それをみて逃げた人の行動は非合理的なのか? ①については当然賠償の範囲に含まれてよいと思う。
 前回の審議会では、草間委員から、年間5mSv以上の被曝で白血病の業務起因性を認める労災基準がある、との示唆があった。また、これに近い値で、年間5.2mSv以上で放射線管理区域にするという基準もある。

●大塚直委員(早稲田大学大学院法務研究科教授)
 合理的な行動であれば、費用を出してもいいのでは? アメリカは80kmを避難区域にしていたし、何を信ずるかは各自で違っていた。コアにあるのは「不安」を感じていたかどうか。
 中島委員とは違う分け方だが、2つに分けて議論した方がいい。
①事故直後の3月に避難した人。水素爆発が起きてびっくりしてしまった。避難の合理性がある。
②それ以降に避難した人。払うにしても限られた額になる。ただし、子ども・妊婦への額は大きくなるだろう。

●草間朋子委員(大分県立看護科学大学学長)
 避難解除になった区域に住んでいる人にも、中間指針で一定程度賠償を認めたからには、自主避難者にも認めざるをえない。

●能見会長
 中島委員の①については基準が作れそうだ。年間120mSvの間は、健康がどうなるか分からないという不安。年10mSv10年続くと、発がんリスクが高まるといわれている100mSvに到達する。そのぐらい長期のスパンを考えるとどうなるか。「そこに暮らせない」と逃げることが、合理的な行動と言えるかどうか考える必要がある。

●大塚委員
 避難の合理性はその時点の判断として考えなくてはならない。100mSv以下の健康被害についてはしきい値がない。「不安」は扱いにくいものだが、考えざるをえない。

●鎌田薫委員(早稲田大学総長)
 自主避難への賠償をある程度認めるべきという点で委員にコンセンサスがありそうだ。避難した時期、住んでいる場所、人の属性(子ども・妊婦など)からして、合理的な回避行動と言えるかどうかが基準になる。この点を審査会で詰めていくべき。ただし、[年20mSvが妥当かどうかといった]安全基準や、避難の行動指針を作ることは、本審査会の役割ではない。

●田中俊一委員(財団法人高度情報科学技術研究機構会長)
 避難したくてもできない人の実態にも配慮すべき。
→能見会長:残った人の健康のことも考えなくてはならない。

●米倉義晴委員(放射線医学総合研究所理事長)
 [放射線量の高い地区に]一時的に立ち入った人の健康被害はどうみるか? 中間指針の周辺部にあるそういう問題をまとめて取り上げるべきで、自主避難だけ言うのはいかがか。

●能見会長
 ICRP(国際放射線防護委員会)で「年20100mSv」「年120mSv」などと被曝の基準を分けているが、いまひとつよく理解できていない。
→草間委員:ICRPの「緊急時被曝」の基準である年20100mSvは、線源がコントロールされていない場合。事故収束に向けた保安院のロードマップの第一ステップは終わった。つまり、ある程度コントロールはできている。第二ステップに入ったのなら、「現存被曝」の基準である年120mSvに移行してもいいのではないか。

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 能見会長は最後に、「この審査会はこれまで[事業者の損害といった問題に比べて]人の健康そのものの損害の問題を十分に扱ってこなかった。そこに切り込んでいきたい。今後も資料などを調べていきたいが、難しい問題なので来週の審議会でもこの問題を取り上げるということにはならないだろう」という趣旨のまとめ発言をしました。

 審議会の雰囲気だけをみると、自主避難への賠償はある程度認められそうな勢いですが、文科省がこれを座視しているとは思われません。委員らの手探り状態の作業に付け込んで、能見会長の言う「資料調べ」の中に、賠償の範囲を狭めるような資料を潜り込ませる工作がこれから始まるのだと思います。これから数週間が正念場のようです。

資料3 自主避難に関する論点.pdf
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7月19日第2回裁判(第1回審尋期日)のご報告

 第1回の審尋期日が719日午後4時30分から福島地方裁判所郡山支部で開かれました。
 債権者(申立人)は、債権者親権者5名と代理人弁護士3名が出席し、相手方である郡山市側は代理人弁護士2名が出席しました。当方からは前回以降新たに集まった5,000近くの署名を提出しました。

 郡山市から当方の申立書に対する答弁書が提出されました。その内容は、以下の理由などから、訴えの却下を求めるというものです。
申立書記載の「請求の趣旨」は、抽象的である。請求の趣旨に記載された措置は公権力の行使そのものに該当する行為を求めており、民事保全法上の仮処分は認められない。郡山市内において教育活動を実施すること自体に起因して、児童生徒の健康にどのような影響が生じるか明らかでなく、保全の必要性がない。債務者は年間1ミリシーベルト以下を目指すため表土除去工事・校舎周辺の除染活動・屋外活動の時間制限などの放射線量軽減化措置をとっており、被曝線量が軽減化されているから、保全の必要性・緊急性が認められない。

 しかしながら、申立人の主張する請求の趣旨は十分具体的であり、また申立人らの提示する申立の趣旨はあくまで債権者個別の疎開措置であって、申立の趣旨自体で集団疎開を求めているわけではなく(認容決定を受けて、事実上郡山市が集団疎開を決断することを期待はしておりますが)、その点で相手方(郡山市)の主張は当を得ないものであります。ただ、この点についての誤解が生じないよう、申立の趣旨の一部の訂正をしたいと考えております。
 それを受けて相手方(郡山市)が上記答弁書の主張を見直し、再度主張を整理することとなります。
 そして、その上で当方から上記主張に対する反論をすることになります。

 答弁書によって郡山市の姿勢は明らかになりました。それは、門前払いを狙うことと、既に郡山市の行っている措置は十分なものであり疎開させる必要性がないというものです。しかしながら、現実には郡山市における空間線量は年間1ミリシーベルトに達するレベルが継続しており、実際に健康被害も生じ始めているのですから、その主張は空虚なものといわざるを得ません。
 郡山市の真摯な対応を引き出すべく、効果的な反論を加える必要があります。
 次回の審尋期日は8月26日午後4時30分から開かれ、次々回の審尋期日は9月9日午後4時40分から開かれる予定です。
 引き続き、裁判へのご注目と応援を宜しくお願いいたします。

 

子どもの安全な場所での教育を求める ふくしま集団疎開裁判の会

http://fukusima-sokai.blogspot.com/

子どもたちを福島原発事故による被ばくから守るため集団疎開を認める決定を求める署名
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